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我々の強みは、放射線科の臨床医と無機材料および有機材料の研究者・エンジニアが結集し、材料・構造設計から化学構造解析、有限要素法解析、生物学的安全性試験、前臨床試験など設計開発の初期段階から試作開発までのボトムアップ・アプローチをシームレスに実行できる体制です。

ステント留置術に代表される血管内治療(Interventional Radiology)に用いられる医療デバイスには、血液および血管内における生体適合性、機械的な特性や耐久性に関する評価が潜在的な課題となっており、半永久的な留置の実現には依然として十分な検討が必要とされています。我々はこれまで、医療現場においてもデバイスの変更や再開発が可能な国産の技術でを作り上げ、日本から「医学·工学・産学連携」のスタイルを発信することにこだわってきました。

現在までに、全身のIVR関連のデバイスを中心に様々な形で開発に携わっており、炭素系薄膜であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いた医用応用のための基礎実験を始めとして、新しい下肢ステント(浅大腿動脈領域および膝下動脈以下:AMEDによる国家プロジェクト)、肝動脈化学塞栓術・その他塞栓術用マイクロスフェア(CIRSE2019、Cum Laude受賞 )、リンパ系を撮像可能な造影剤など研究プロジェクトは多岐に渡り、常に医療現場で是非使いたいと思われるような製品の研究開発に取り組んでいます。

THEME 01
膝窩動脈以下の動脈硬化性病変に留置可能な 長期開存ステントシステム

「足は第二の心臓」とも呼ばれるように、脚の動脈硬化によって血管が細くなり血流が途絶えると、歩行困難や足の切断に至ることがあります。近年、糖尿病などの生活習慣病の増加に伴い、足が腐ってしまうような重症虚血の症例が年々増えております。以前であれば、すぐに足を切るしか方法がなく、下肢の切断に至ると、ある種のがんよりも 5 年生存率は低くなるため、血流の再開通は非常に重要です。

近年治療法の進歩は目覚ましく、カテーテル治療が一般的になってきています。血管拡張する方法として、バルーンカテーテル(風船)によって一時的に狭窄した血管を拡げる血管拡張術と、金属ステントを留置することによって術後も物理的に血管を拡げるステント留置術があります。

膝下の動脈は 4 mm 以下と細く、適切なステントがないため開発が望まれていました。我々の研究グループでは、この膝下の細径動脈に対して使用できるステントの開発を行なっております。これまでに細径の血管に留置しても十分に血流を確保できる独自のステントデザインを開発しました。このステントには、血栓が付きにくく、また異物反応を抑制するコーティングを搭載しており、生体適合性を向上しております。このため、安全に血管内に留置することができ、長期にわたって血流を確保し、脚の切断を回避することが期待されます。

THEME 02
X線視認性・生体吸収性・薬剤溶出性を有する 化学塞栓治療用マイクロビーズ

国際がん研究機関 (International Agency for Research on Cancer:IARC) の集計(GLOBOCAN 2012)によると、肝癌の罹患者数は約78万人 (男55万人,女23万人)であり、全癌種中第6位 (5.6%) となっています。肝癌の中でも、その約8割を占める肝細胞癌に対しては、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が適用されます。TACEでは、カテーテルと呼ばれる数mmの細い管を腫瘍近傍の肝動脈まで挿入し、直径数百μm程度の薬剤溶出性の球状物質(Drug-Eluting Beads:DEB)を注入します。これにより、腫瘍に栄養供給する肝動脈の血流を遮断し、抗腫瘍効果を狙います。

当研究グループでは、より安全で効果的なTACEを実現する新規DEBを開発しています。新規DEBは、X線造影剤と生体吸収性ポリマーから作製され、X線照射下での視認性と生体吸収性を兼ね備えています。そのため、DEBによる塞栓箇所はX線透視やCTスキャンを通して視認でき、術中・術後の経過観察が可能となる上に、DEBが治療後に生体内から消失するため、塞栓箇所の血流回復や合併症のリスク低減が期待できます。
また、新規DEBの大きさや含有させる薬剤を変えることで、TACEに留まらない幅広い血管塞栓術への利用も見込んでいます。

THEME 03

古典的なリンパ管造影後、マルチスライスCTから作成した最大値投影法(MIP)画像

リンパ系を高精細に造影可能なMRI造影剤ナノダイヤモンド-ガドリニウム複合体

リンパ系の構造・機能を変化させる疾患は外傷、感染、悪性腫瘍、先天性疾患や医原性など多岐に及びますが、これらの病態が明らかではなく、こうした医学領域の解明のためには、まずリンパ系の解剖学的・生理学的意義の解明に向けたリンパ系イメージング技術が求められています。イメージング技術の中でも、X線断層法(CT)と異なり、患者が被爆しない磁気共鳴画像法(MRI)によるリンパ系の画像化が特に有望視されており、これまでMRIの診断能を向上させるガドリニウム(Gd)造影剤の利用が試みられてきたものの、高精細にリンパ系を画像化するにはいくつもの技術的障壁があります。
現在、リンパ管をイメージングするためには、直径1 mm程度のリンパ管に造影剤を注射する以外になく、更に造影剤がすぐにリンパ管外に流出してしまうため、精細な画像を得ることができません。
当研究グループでは、造影剤の分子をナノスケールの粒子と結合させ、皮内注射すると、間質からリンパ系に選択的に輸送されることに着目し、ナノダイヤモンド粒子を用いたGd造影剤の開発に取り組んでいます。生体適合性に優れるナノダイヤモンドとMRI造影能に優れるGd錯体の複合体新規MRI造影剤は、皮内注射による低侵襲で簡便なリンパ系イメージングを実現し、これまで未知とされてきたリンパ系の様々な疾患の診断や病態解明につながると期待されています。

THEME 04
デジタル動態画像解析技術を用いた肺の機能的イメージング

単純 X 線画像を用いた胸部画像診断の主な目的は、形態から判断される解剖学的異常を診断することでした。 一方で、呼吸器疾患は解剖学的な画像所見に加え,局所換気や肺循環等の機能的評価を行うことができれば、より正確な診断・治療・フォローアップに繋がります。そこで我々は、従来の単純 X 線撮影装置並みの簡易なシステムで、肺機能の可視化、定量化を可能とする新たな胸部診断手法の実現させた「デジタル動態画像解析技術(Digital Dynamic Radiography, DDR)」の研究に取り組んでいます。本技術は、X 線動画撮影装置(高感度のフラットパネルディテクター及びパルスX線照射装置)と動態解析ワークステーショ ンから構成されています。動態解析ワークステーションでは取得された X 線動画像から様々な機能的情報を抽出することが出来るため、動画像の持つ特徴を最大限に活かした高付加価値の提供が可能となっています。
当院には2018年4月よりDDRの臨床実機が世界で初めて導入され,実臨床で使用されています。また、本研究は特定臨床研究法に則り、認定臨床研究審査委員会の承認を得た後(滋賀医科大学,承認番号:CRB5180008)、日本臨床研究実施計画・研究概要公開システムに登録の上(承認番号:jRCTs052180103)で実施されています。現在は肺血流画像撮影のためにより呼吸性アーティファクトの少ない撮影プロトコルの開発や肺血流の経時的変化を定量的に評価する研究を行っています。DDRの撮影は造影剤を使用することなく6−15秒程度で実施できるため、非常に簡便かつ迅速な肺血流評価が可能となってきています。

大型研究助成金
2022年10月〜
2027年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
令和4年度 「橋渡し研究プログラム(シーズF)」
課題名「膝窩動脈以下(below-the-knee:BTK)の細径動脈硬化性病変に対する長期開存ステントシステムの実用化研究」(2027年3月まで。2024年度末にステージゲート有り)
代表者:東海大学長谷部光泉
2018年10月~
2021年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
先端計測分析技術・機器開発プログラム 機器開発タイプ 代表者
課題名「膝窩動脈以下(below-the-knee:BTK)の細径動脈硬化性病変に対する長期開存ステントシステムの開発」(2022年3月まで継続予定)
代表者:東海大学長谷部光泉
2018年4月~
2020年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター 慶應義塾大学拠点
橋渡し研究戦略的推進プログラム シーズA
課題名「X 線視認性を有する肝臓がん治療用の新規生分解性マイクロビーズ開発」
代表者:東海大学長谷部光泉
2020年4月~
2021年3月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
慶應義塾大学医学部臨床研究推進センター 慶應義塾大学拠点
橋渡し研究戦略的推進プログラム PreシーズB
課題名「高視認性新規ナノ粒子 MRI 造影剤の開発」
代表者:東海大学長谷部光泉
2014年10月~
2016年3月
経済産業省 課題解決型医療機器開発事業
課題名「脳血管血栓除去マイクロステントシステムの製造に向けた研究開発」
代表:株式会社World Medish(現株式会社Biomedical Solutions)
サブリーダー:東海大学長谷部光泉
2007年4月~
2010年3月
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 
ナノテク・先端部材実用化研究開発
課題名「ボトムアップ構造制御ナノカーボン・ポリマー複合化薄膜を用いた抗血栓性医療機器の開発」
代表:東京大学附属病院
分担:慶應義塾大学 堀田篤、立川病院 長谷部光泉、川澄化学工業株式会社、クリニカルサプライ株式会社